序.わたしとわたし




「ねえ、いーでしょ? 飼っていーでしょ?」
「だめよ。誰が世話すると思ってるの? 生き物を飼うって大変なんだから」
「ちゃーんーとー世話すーるーかーらー!」
「だーめ。元いたところに返してきなさい」
 わたしは声を荒げた子供を冷静に諭す。
「つーいーてーきーちゃーう! つーいーてーきーちゃーう!!」
 わたしは駄々っ子になる。まるで小学生のように大げさなイントネーションで声を作りながら、かぴばらを自分のそばへ引き寄せた。我ながらウザイ。だが、やめられない。手のひらサイズのかぴばらは、なすがままだ。
 つまり、全てわたしの自演だ。母親役、わたし。子供役、わたし。
「しょうがないわねえ」
 わたしはかぴばらを抱き寄せた。自演終了。「子供の」わたしの勝ち。
 そんなわたしに関係なく、そのかぴばらは「きゅっ」と鳴いた。





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